
三年ほど前、宿泊業のお客様にサイトを納品したあと、「文字や画像を直したいときは、どうすればいいですか」と聞かれたことがある。
僕はそのとき「その都度お見積もりを出して、こちらで修正します」と答えた。返ってきたのは「これは無料でできないの」という言葉で、費用の話をしたあとには「案外するんだね」と言われた。
怒られたわけではない。嫌な顔をされたわけでもない。ただ、納得はされていなかった。あのときの申し訳なさが、いまの納品の形を決めている。
文字を直すのに、見積書が要る

僕が見てきた範囲では、公開後のちょっとした文字の変更に1,000円から2,000円ほどかかるのは、ホームページ制作では珍しいことではない。画像を差し替えるだけでも、また別に費用がかかる。
制作する側から見れば、この形は悪くない。作って終わりではなく、依頼がずっと続くからだ。売上として読める。
けれどお客様の側から見ると、まったく違う景色になる。ちょっとした修正にお金がかかるとなれば、当然ためらう。画像を一枚替えるだけでも、そのままにしてしまう。
やりたいのに、やれない。事業を動かしている人がその状態に置かれていることが、ずっと腑に落ちていなかった。
厄介なのは、どちらの言い分も正しいことだ。制作側からすれば、文字を一つ直すだけでもサーバーへの反映まで含めて案外面倒な作業になる。お客様からすれば、文字を打ち替えるだけなのだから2分で終わるはずの作業に見える。
同じ一行の修正を見ているのに、見えているコストが違う。だからこの差は、話し合っても埋まらない。埋めるなら、料金表ではなく作り方のほうを変えるしかなかった。
触れるようにするほど、制作費が上がっていた

以前は、一枚ずつ手で組むサイトか、WordPressで作るサイトが中心だった。
このとき、ブログやお知らせのような記事の部分は、お客様が自分で更新できるようにしていた。触れなかったのは固定ページのほうだ。たとえばトップページやサービス紹介のように、デザインを作り込んだページには手を入れられない。
事業に効くのはむしろそちらだと思うのだが、そこを直したくなったら、その都度こちらに依頼してもらうしかなかった。
もちろん、手をこまねいていたわけではない。WordPressに編集用の入力欄をページごとに作り込んで、触れる範囲を広げるやり方も試した。実際、かなりの部分を編集できるようにはできる。
ただ、そうすると今度は初期の制作費が上がる。触れるようにするほど、最初に払ってもらう金額が増えていく。お客様のためにやっているはずの工夫が、そのまま負担になって返ってくる。この時期はずっともどかしかった。
月に数十万の保守費を、先に手放した

二年ほど前にSTUDIOというツールを触って、前提が変わった。デザインを崩さないまま、エンジニアではない人がその場で直せる。魅力はそこ一点だった。
それからは、一枚ずつ組むサイトもWordPressもいったんやめて、STUDIO一本に絞った。納品の形を先に決めて、それに合う道具だけを残したことになる。
手放したのは技術だけではない。保守管理としていただいていた費用は、合計すると月に数十万という規模だった。正直に書くと、迷いはあった。
それでも、あのお金は自分でも納得しきれていなかった。同じ金額をもらい続けるより、お客様が自分で管理できるようになって満足してもらったほうがいい、と率直に思った。
回収の見立ては単純だ。良いサイトを納品すれば、口コミで次の依頼が入る。そこが回るなら、保守費は問題にならない。保守をいただかない形は一度に切り替えたわけではなく、そう考えながら少しずつ本格化させていった。
作り方を変えてから、個人事業主や零細企業からの依頼が増えた。自分たちで管理したいのでSTUDIOで作ってほしい、と、はじめから指名で相談が来るケースも増えている。
崩れない範囲を、作る前に決めている

自分で更新できる形にする、というのは、全部を自由に触れる状態にして渡すという意味ではない。触っても崩れない形にしてから渡す、という意味だ。
だから、編集できる場所を決めるのは納品のときではない。サイトを作りはじめる前に決めている。どこを自分で編集したいのか、どこを頻繁に書き換えるのかを先に聞く。そのうえで、管理画面から本人が書き換えられる形にしておく箇所や、一覧表のように行を足すだけで増やせる箇所を決める。触りたいと言われた部分は、最初から管理しやすい仕様で組む。
渡すときも、操作マニュアルを送って終わりにはしない。実際に触ってもらうレクチャーの時間を取る。共通の説明資料に加えて、その案件ならではの難しい操作があれば、その部分だけスクリーンショットや動画に撮って、その人のための資料を別に作る。
いま実際に動いている例で言うと、あるIT企業では、イベントサイトを使い回すためのテンプレートをこちらで作って渡している。触っているのはエンジニアではない。マーケティングの担当者や営業、イベントを主催している人たちだ。
文字も画像もイラストも、その場所でレイアウトが崩れないように差し替えられる。専門の知識がなくても運用が続いている。
触ってもらった結果サイトが壊れた、という事故は基本的に起きていない。触れる範囲を広く取ったからではなく、崩れない範囲に作り方のほうを寄せているからだと思っている。
その線引きの延長で、あえて編集できなくすることもある。判断しているのは二つだ。
一つ目は、パソコンを扱うのが苦手で、保守管理は全部こちらに任せたいとお客様自身が望む場合。ここは本人の希望が優先される。
二つ目は、デザインが崩れるリスクが高い場合。デザイナーのポートフォリオのように、デザイン力そのものが商品になっているサイトでは、文字の間隔を一つずつ調整し、崩れないように文字数まで詰めてある。そこを開放すると、余計な改行が入ったり字間が伸び縮みしたりして、意図しない見た目になる。デザインに強いこだわりがない一般的なサイトなら、文字の間隔は一律に揃えて、触れる形で作る。
これとは別に、そもそも技術的に渡せないケースもある。アプリのような動きが必要で専用の開発が要る作り方をすると、あとから触れる余地を残せない。
渡しているのは、更新権ではなく速さ

これまでのホームページ制作では、サーバー管理やドメイン管理といった、中身のよく分からない名目の保守管理費を1万円ほどいただく形が一般的だった。僕は、この仕組み自体がもう終わっていくのだと思っている。
ChatGPTやClaudeのような生成AIが出てきて、マーケティングの手法は民主化された。広告の文面をどう書くか、キャンペーンのページに何を載せるか。以前なら外に頼むことが多かったはずのことを、いまは事業者が自分の手で試せる。
そのときに、サーバーもドメインもサイトの更新も全部を制作会社が握っていると、何が起きるか。打ち手を増やしたいとき、あるいは動きを速くしたいときに、最初の一歩が出せない。
一つのマーケティング手段の寿命が長かった時代なら、それでもよかった。手を替えるのが数年に一度なら、都度依頼でも間に合う。いまはそうではない。遅いこと自体が、致命的になったと思っている。
だから僕は、更新権をお客様に持ってもらう形で渡している。親切のつもりでやっているのではない。自分でも納得しきれないお金を受け取り続けたくなかった、というのが半分だ。すぐ編集できる状態、すぐ方向転換できる状態を持っていてもらうことが、これからのホームページ制作の主流になると思っているからだ。
管理しやすいツールで作るのは、そのための手段でしかない。三年前に「これは無料でできないの」と言った人には、いまなら違う答えを渡せる。渡したあと、事業者が自分たちのやり方を試せて、それで売上が伸びていく。そういうサイトを作りたいと思っている。
もし気になったら、いま持っているサイトの管理画面を開いて、トップページの一行を自分で書き換えられるか試してみてほしい。そこで手が止まる範囲が、いまの契約で自分に残っていない自由の範囲になる。
僕はTeraceという屋号で、個人事業主や小さな会社のホームページ制作をやっています。
作って納品して終わりではなく、公開したあとに自分たちで動かしていけるサイトを、どこを触りたいかを聞くところから一緒に決めて作っています。
「直したいところがあるけど、頼むほどでもないと思って放置している」という方は、気軽に覗いてみてください。






