訪問介護の一人当たりの売上相場はいくら?採算ラインも解説

2024年度、全国で179件の介護事業者が倒産し、うち86件を訪問介護が占めました(東京商工リサーチ)。ヘルパー一人当たり売上の把握は、訪問介護事業所が自社の採算を判断するための出発点です。

キャリアアドバイザー時代に、小規模なグループホームを複数運営している社会福祉法人の理事長から相談を受けたことがあります。 時短勤務OK・無資格未経験でも気さくにOJTをする、スタッフの定着率が高い施設でした。

ぺんすけ

その理事長が「どうすれば求人に困らなくて済むかな」と打ち明けてきたとき、私は驚きました。いい施設が採用で苦しんでいるこの構造的な問題は、今の倒産増加とつながっています。

サービス種別は違っても、この構造は訪問介護も同じです。いい介護を提供していても、経営数字が追いつかなければ事業は続けられません。

「うちの事業所の採算は大丈夫か」を数字で確認したいなら、一人当たり売上の計算が先です。全国平均と比べる前に、自社の数字を算出してみてください。

この記事では、計算式の定義から全国相場・採算ライン・2024年改定の影響・改善策まで、一貫した数字ベースで解説します。

目次

訪問介護の一人当たりの売上の相場について

まず、訪問介護の一人当たりの売上の相場について見ていきます。

ぺんすけ

全国相場との乖離を知ることで、自社の数字がプラスなのか、それともマイナスなのかを認識することが第一歩です!

全国平均は1人あたり月41.5万円

訪問介護の全国平均主要指標(令和5年度調査):月間収益301万円・常勤換算7.3人・1人当たり月間売上約41.5万円

厚生労働省の令和5年度介護事業経営実態調査(令和4年度決算・2024年改定前のデータ)では、訪問介護の1事業所当たり月間収益は301万1,000円、常勤換算職員数は7.3人でした。

このデータから計算すると、1人当たり月間売上は約41.2万円になります。

さらに同調査では、常勤換算1人当たりの月間訪問回数が104.6回、訪問1回当たり収入が3,965円(基本報酬に加算を含めた1回当たりの平均値)と記録されています。 104.6回×3,965円=約41.5万円というコア数値が導かれます

ただし、この数字は大規模事業所と小規模単独所が混在した平均値です。

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自社が小規模事業所なら、平均より低い数字が出ても珍しくありません。

また、サービス提供責任者(サ責)が他のヘルパー業務を兼任しているか専任配置かによって、常勤換算当たりの訪問件数が変わり、一人当たり売上に直結します。サ責が事務・調整業務に追われるほど訪問件数への貢献が減るため、専任化は一人当たり売上を下げる要因になります。

収支差率(事業所の税引前利益率に相当する指標)は7.8%です(令和4年度決算・税引前・補助金除く)。 収入に対する給与費(人件費)の割合は72.2%です(出典:厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査概要」p.3)。

これらは2024年改定前のデータです。 介護報酬の改定後の最新収支差率はまだ統計化されていないため、現在の実態は7.8%を下回る可能性が高い状況です。

単価は地域で最大14%変わる

訪問介護の地域区分別1単位当たり単価:1級地11.40円からその他10.00円まで最大14%の差があるバー図

訪問介護の介護報酬は、地域区分によって1単位当たりの金額が異なります。 厚生労働大臣が定める一単位の単価では、訪問介護の単価は次のとおり定められています。

地域区分1単位当たりの単価
1級地(東京23区)11.40円
2級地11.12円
3級地11.05円
4級地10.84円
5級地10.70円
6級地10.42円
7級地10.21円
その他10.00円

1級地とその他地域の差は14%です。 同じ訪問回数・同じサービス内容でも、東京23区と地方では一人当たり売上が1割以上変わる計算になります。

自社の一人当たり売上を業界平均と比較する際は、地域区分の違いを考慮する必要があります。

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自社の地域がどこに区分されるのかを特定した上で、平均と見比べるのがおすすめです!

都市部事業所の1人あたりの売上平均は地方事業所より高くなる傾向があり、全国一律の平均値はそのまま目標値にはなりません。

訪問介護の採算ライン|黒字と赤字の分かれ目

採算ラインを「月に何回訪問すれば黒字か」という固定の数字で表すことはできません。 人件費率・給与水準・地域単価の3変数によって、事業所ごとに数字が変わるためです。

厚生労働省の公表データを使った計算を見てください。

人件費の目安は収入の72.2%まで

訪問介護の採算ラインの目安:月間売上に対する給与費72.2%・その他コスト・収支差率7.8%の配分図

全国平均の給与費割合は72.2%で、赤字と黒字の境界を判断する基準として機能します。自社の給与費割合がこれを大きく上回るほど赤字に近づき、下回るほど利益が残る構造です。

出典:厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査概要」p.3

全国平均の収支差率(税引前利益率に相当する指標)7.8%は、給与費割合72.2%のもとで成立しています。 つまり給与費割合が高止まりした事業所では、収支差率7.8%は確保できません

計算例:常勤換算5人・月間売上200万円の事業所。
・一人当たり売上 = 200万円 ÷ 5人 = 40万円/人
・給与費(72.2%水準) = 200万円 × 72.2% = 144万4,000円
・給与費を人数で割ると 144万4,000円 ÷ 5人 = 約28.9万円/人
・平均給与額34万9,740円(処遇改善加算取得事業所・令和6年9月時点)はこれを上回る水準。
・したがって、月間売上200万円・職員5人の規模では給与費割合が72.2%を超えやすく、収支差率7.8%の確保が難しくなる。

介護職員(月給の者)の平均給与額は34万9,740円です。

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一人当たり売上41.5万円から平均給与34.9万円を引くと、差額は約6.6万円。この6.6万円から管理者の人件費・事務所の家賃・通信費・消耗品費を賄うことになります。

前より多く訪問しないと黒字を保てない

2024年度介護報酬改定前後の訪問介護基本報酬比較:身体介護・生活援助の各区分で単位数が引き下げられた比較表

2024年度(令和6年度)の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられました

2024年度改定前後の基本報酬比較(訪問介護)

サービス区分改定前(単位)改定後(単位)変化
身体介護20分未満167163−4単位
身体介護20〜30分未満250244−6単位
生活援助20〜45分未満183179−4単位
生活援助45分以上225220−5単位

出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」

1回当たりの収入が下がった分、同じ人件費を賄って黒字を保つには訪問回数を増やす必要があります。改定前の収益を維持するには、収益減少分を上回る訪問件数の増加が必要です。

ただし、ヘルパーの労働時間には上限があり、回数を無制限に増やすことはできません。

登録ヘルパーが多いと赤字になりにくい

登録型ヘルパーは訪問件数や稼働時間に応じて給与が発生するため、常勤型に比べて移動時間や待機時間に伴う人件費の固定化リスクを大幅に軽減できます。一方、常勤型は固定給のため、訪問件数が少ない日でも人件費が発生します。

登録型比率が高い事業所は変動費型のコスト構造になり、訪問件数が少ない月も赤字になりにくい特徴があります。ただし、登録型ヘルパーへの依存度が高いと、利用者から急なキャンセルが出た際にシフト調整が難しく、稼働率が安定しないリスクもあります。

常勤型が多い事業所は固定費が高くなる代わりに、安定した訪問件数をこなせる体制を維持しやすくなります。

2024年改定のダメージは小規模の訪問介護に集中

2024年改定の基本報酬引き下げは、特定のタイプ・規模の事業所に集中して影響を与えています。 全体の倒産件数だけでなく、どの事業所が影響を受けているかを把握することで、自社のリスクを判断できます。

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キャリアアドバイザー時代に、複数の施設長や管理者と話す機会がありました。報酬改定が近づくたびに「また単価が変わったらうちはどうなる」という言葉が出てきた。数字だけ見ると「数十円の引き下げ」でも、薄い利益率の中で積み重なれば経営の根底が揺らぐ。その切迫感は、統計を眺めているだけでは伝わりません。

倒産件数が過去最多の179件になった

2024年度(年度ベース)の介護事業者の倒産件数は179件に達し、前年度比36.6%増・過去最多を更新しています。このうち訪問介護は86件で、全体の約48%を占めます。

倒産の主な原因は売上の落ち込みです。 2024年(暦年)の倒産172件では、売上不振が原因の72.6%(125件)を占めました。

出典:東京商工リサーチ

小さい事業所ほど減収を吸収できない

2024年(暦年)の介護事業者倒産172件のうち、従業員10人未満の事業所が143件(83.1%)を占めます。

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データが示すのは、小規模な単独事業所ほど報酬引き下げの直撃を受けているという実態です。大規模法人は他サービス・他事業所との内部補填が可能ですが、単独事業所にその余裕はありません。

減収の中身を具体的に見てみます。 身体介護20分未満の1回当たり収入は、改定前の167単位から163単位に引き下げられました。

1単位=10円として概算した場合(実際の単価は地域区分で変わります)、1回当たりの収入差は40円です。 月間200回の訪問で換算すると、月あたり約8,000円の収入減になります。これが全ヘルパーに積み重なると、事業所全体の月間収益に数万円単位の影響が出ます。

「数万円程度」と聞こえるかもしれませんが、収支差率7.8%の薄さを前提にすると、この差は黒字と赤字を分ける水準になります。

出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」

処遇改善加算も小規模には取りにくい

令和6年6月から、旧来の処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の3加算が、「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。

一本化により加算の取得・管理が簡略化された面もありますが、加算要件を満たせない小規模事業所は加算が取れず、人件費原資の確保が難しくなります。

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制度自体が「ある程度規模があり、人事制度や事務部門が確立している法人」をモデルに作られています。全員が現場プレイヤーである小規模事業所にとっては、「ルール作りのノウハウもない」「固定費化のリスクも怖い」「書類を作る時間もない」という三重苦になっている状況です!

一本化の詳細な算定要件・金額については、最新情報を厚生労働省または顧問の社会保険労務士に確認してください。

訪問介護の一人当たり売上を上げる方法4選

一人当たり売上を上げる方法は、大きく「訪問件数を増やす」「単価を上げる」「人件費率を安定させる」の3方向に集約されます。

以下の5つはこの3方向を具体化した打ち手です。

優先順位は自社の現状(稼働率・加算取得状況・ヘルパー構成)に応じて判断してください。

移動ルートを見直して訪問件数を増やす

訪問介護の実稼働時間は、移動時間の長さに大きく左右されます。 移動時間が長いほど、同じ労働時間でこなせる訪問件数は少なくなります。

利用者の居住地を地図上でクラスター(エリアごとの塊)に整理し、同一エリアで連続した訪問ができるようルートを組み直すことで、移動時間を削減できます。1日のスケジュールを見直すだけで、1人当たり1〜2件の追加訪問が可能になるケースもあります。

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稼働率を上げるには、一番すばやく対策を打てるのが、移動ルートの見直しです!

特定事業所加算で単価を最大20%上げる

特定事業所加算を取得すると、訪問介護の基本報酬に加算率が上乗せされます。

◼︎特定事業所加算の加算率一覧

区分加算率
特定事業所加算Ⅰ所定単位数の20%
特定事業所加算Ⅱ所定単位数の10%
特定事業所加算Ⅲ所定単位数の10%
特定事業所加算Ⅳ所定単位数の5%
特定事業所加算Ⅴ所定単位数の3%

出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」

加算Ⅰを取得できれば、全訪問件数の単価が20%上乗せされます。 月間売上300万円の事業所なら、理論上は360万円まで引き上げられる計算です。

月間売上300万円・常勤換算7人の事業所が加算Ⅰを取得した場合、全訪問件数の単価が20%上乗せされます。 同じ訪問件数・同じサービス提供で月間売上は360万円まで増加します。加算取得のための要件コストを差し引いても、採算改善の効果が見込めます。

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ただし加算を取得するには介護福祉士の配置比率・研修計画の策定・重度者対応などの要件を満たす必要があります。要件を満たすための人員コスト・研修コストも含めて試算してから判断してください。

保険外の自費サービスで売上を足す

介護保険の適用外となるサービス(外出同行・買い物代行・話し相手など)を自費で提供することで、保険報酬に依存しない売上を積み上げられます。

例えば、1時間の保険サービス(訪問介護・身体2)の総費用が4,000円、自費サービスの料金を30分1,500円と設定した場合(※利用者の保険負担割合が1割の方の場合)、料金と売上のバランスは次のようになります。

サービス内容利用者が払う金額事業所に入る売上
入浴介助(保険サービス)約400円約4,000円
お話し相手(自費サービス)1,500円1,500円
合計約1,900円約5,500円

上記の例だと、同じ日に同じスタッフが訪問する効率の良さを活かしながら、保険報酬の上限(4,000円)を超えて、1回あたり1,500円の売上を純増させられるメリットがあります。

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ただし、保険サービスと保険外サービスは明確に区分しなければなりません。同一時間帯での混在提供は介護保険法上の問題が生じるため、時間・記録・料金体系を明確に分けて運用してください。

実施可否は利用者層と地域性に大きく左右されます。 自費サービスの需要がある地域・利用者層かどうかを事前に確認してから導入を検討してください。

加算漏れをチェックして取りこぼしをなくす

訪問介護の収益は、基本報酬に加えてさまざまな加算を積み上げることで成立しています。 しかし現場では、加算の算定要件を満たしているにもかかわらず、算定を失念しているケースが少なくありません。

月1回の加算漏れチェックを定例化し、サービス提供責任者(サ責)が算定要件と実際の請求内容を照合する体制を作ってください。

初回加算・緊急時訪問介護加算・夜間/早朝加算など、見落とされやすい加算から優先的に確認することをお勧めします。

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この記事を書いた人

レバウェル介護にて約2年間、介護業界専門のキャリアアドバイザーとして従事。これまでに300名以上の介護士の転職面談を担当。また介護施設への人材派遣を通じて採用側の課題解決にも従事。このような実務経験をもとに、介護事業者・求職者双方にとって信頼性の高いWeb制作を行っています。

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