ケアマネ1人で居宅介護支援事業所は開業できる?収支モデルも紹介

居宅介護支援事業所は、ケアマネジャー(介護支援専門員)1人でも開設できます。常勤のケアマネジャーを1人置き、その人が管理者を兼ねる形が制度上認められているためです。

問題は、開設できるかどうかより「1人で食べていけるか」です。結論を先に言うと、計算上は担当30件前後で黒字圏に入ります

ただし公的統計が示す小規模事業所の平均は赤字で、試算どおりにいかない事業所のほうが多いのが実態です。

この記事では、次の4点を数字で確かめます。

  • 1人で開設するために必要な条件
  • 担当できる件数の上限と、45件目から下がる報酬
  • 担当件数別の月収入シミュレーションと、統計が示す収支の実態
  • 1人体制のまま収支を改善する打ち手

筆者はレバウェル介護でキャリアアドバイザーとして約300名の介護職者の転職支援を担当し、多くの居宅介護支援事業所の実態を見てきました。現在はTerace代表として介護事業所のホームページ制作・名刺制作を手がけています。

その経験を活かしながら、本記事では解説していきます。記事内の数値と制度情報は厚生労働省の一次情報に基づいており、出典をセクションごとに明記しています。

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目次

居宅介護支援事業所を1人で開設する条件

居宅介護支援事業所の開設に必要なものは、法人格と人員基準と設備基準の3つです。

必要なもの満たす内容
法人格株式会社・合同会社などの法人を設立していること
人員基準常勤の管理者1名(介護支援専門員との兼務が可能)。管理者は主任ケアマネジャーであること
設備基準事務室と、プライバシーを確保できる相談室などがあること

3つの基準の要点は次のとおりです。

  • 主任ケアマネジャーを取得していれば、1人でも独立できます
  • 設備基準を満たせば、自宅を事業所にすることもできます

自宅での開業を考えている場合は、その場所で指定を受けられるかを管轄の窓口に相談しておくと確実です。

より詳しく居宅介護支援事業所の人員基準について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

出典:指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について(老企第22号・令和6年度改定後)

1人ケアマネが担当できる件数の上限は44件

1人体制で担当できる人数には、2つの天井があります。

  • 人員基準:介護予防支援の利用者を3分の1に換算した合算人数が44人を超えると、2人目のケアマネジャーが必要になる
  • 報酬の逓減:取扱件数が45件目に届いたところから、1件あたりの単位数が段階的に下がる

このうち収入に直接効くのは後者で、これが逓減制と呼ばれる仕組みです。居宅介護支援費(Ⅰ)を算定している事業所の単位数は、次のように変わります。

取扱件数要介護1・2要介護3・4・5
1〜44件目1,086単位1,411単位
45〜59件目544単位704単位
60件目以降326単位422単位

出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に係る単位数サービスコード表(算定構造)」

45件目から報酬が半分に下がる

居宅介護支援費(Ⅰ)の逓減制を示す棒グラフ。1〜44件目は要介護1・2で1,086単位、要介護3・4・5で1,411単位。45〜59件目は544単位と704単位。60件目以降は326単位と422単位に下がる。

件数の割り当ては、利用者の契約日が古いものから順に行います。

1件目から44件目までが満額で、45件目以降は逓減後の単位数になります。

45件目以降に起きること中身
要介護1・2の単位数1,086単位が544単位へ、実質半分の水準まで下がる
60件目以降の単位数326単位まで下がり、満額のおよそ3割になる
業務量移動時間もモニタリング訪問も、44件目までと同じだけかかる

担当44件の事業所が45件目の利用者を受けたとします。その1件から得られる報酬は、44件目までの半分程度にとどまります。
担当を増やすほど売上が伸びる仕組みではないという点が、1人事業所の収支計画を左右します。

ぺんすけ

逓減が始まる件数を、担当件数の上限だと思い込んでいる方がいます。45件目以降も受けられますし、地域に他の事業所がなければ受けざるを得ない場面もあります。下がるのは報酬であって、受けてはいけないわけではないと整理しておきましょう。

ただし、45件以上になると人員基準的にケアマネを1名増やさなければならず、人件費もかかることを認識しておきましょう。

出典:日向市「令和6年度介護報酬改定に関する集団指導資料(解釈通知の引用)」算定構造

居宅介護支援費Ⅱなら49件まで満額になる

逓減が始まる件数は、要件を満たすと後ろにずらせます。それが居宅介護支援費(Ⅱ)で、満額の上限が49件目まで、逓減の開始が50件目からに変わります。

算定に必要なのは次の2つです。両方とも満たしてはじめて、要件を満たしたことになります。

  • ケアプランデータ連携システムを活用していること
  • 事務職員を配置していること(常勤である必要はなく、同一法人内の配置でも認められる)

要件はケアマネジャーの人数ではないため、1人事業所でも満たせます。ただし逓減後の単位数は(Ⅰ)よりわずかに低く設定されています。

取扱件数要介護1・2要介護3・4・5
1〜49件目1,086単位1,411単位
50〜59件目527単位683単位
60件目以降316単位410単位

45件から49件の帯を厚く持つ事業所ほど(Ⅱ)が有利になり、それより件数が少なければ差はほとんど出ません。

ぺんすけ

(Ⅱ)を取りにいくかどうかは、いま何件を担当しているかで答えが変わります。40件前後で頭打ちの事業所なら、先にシステムを入れても効果は出にくいです。45件を超える見込みが立った段階で、事務職員の配置と合わせて検討しましょう。

出典:算定構造日向市 集団指導資料

要支援の利用者は3分の1しか数に入らない

取扱件数を数えるとき、介護予防支援の利用者は3人で1件として算入します。要支援の方を多く受けている事業所ほど、実際に訪問している人数より取扱件数は小さく出ます。

居宅介護支援の利用者が38名、介護予防支援の利用者が12名の事業所を考えます。
12名 ÷ 3 = 4件と換算し、38件 + 4件 = 42件が取扱件数です。実際には50名を訪問していても、報酬上は44件の枠に収まっている状態です。

逆にいえば、要支援の方を多く担当している事業所は、訪問件数の割に売上が伸びにくい構造にあります。

月の集計では、実人数と取扱件数を分けて記録しておくと判断を誤りません。

出典:日向市 集団指導資料(解釈通知の引用)

1人ケアマネ事業所の収支シミュレーション

ここからが本題です。1人で開設して勝算があるのかを、担当件数別の収入と公的統計の両方から確かめます。

試算の前提は次の3つです。

  • 要介護1・2と要介護3・4・5の利用者が半々
  • その他の地域(1単位10円。1級地なら11.40円まで上がる)
  • 居宅介護支援費(Ⅰ)を算定し、介護予防支援は含まない
担当件数月の単位数月の収入
20件24,970単位249,700円
30件37,455単位374,550円
40件49,940単位499,400円
44件(満額の上限)54,934単位549,340円
50件(うち6件は逓減後)58,678単位586,780円

出典:算定構造社会保障審議会介護給付費分科会 第243回 資料1「地域区分」

担当30件で平均的な支出を上回る

担当件数別の月収入シミュレーション。20件249,700円、30件374,550円、40件499,400円、44件549,340円、50件586,780円。実利用者40人以下の平均月支出35万5千円のラインを30件付近で上回る。

比較の相手になるのが、令和5年度介護事業経営実態調査が示す実利用者40人以下の事業所の平均月支出、約35万5千円です。

この金額を固定して試算の収入と並べると、次のようになります。

担当件数平均支出との差
20件約10万5千円の不足(赤字)
30件約1万9千円の黒字
40件約14万4千円の黒字
44件約19万4千円の黒字

分かれ目は30件前後にあります。逆にいえば、20件台で止まっている間は人件費と事務所経費を賄いきれません。

ぺんすけ

独立して最初の半年は、担当件数が20件を超えないことが珍しくありません。この期間を運転資金でしのげるかどうかが、最初の関門になります。
開業資金は初期費用だけでなく、赤字の期間を支える金額として見積もってください。

出典:厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査結果」第79表

実利用者40人以下の平均は赤字になる

ところが統計が示す実態は、試算ほど明るくありません。

実利用者40人以下の事業所の収支差率は、法人税等を差し引いたあとで−4.6%でした。

項目実利用者40人以下の平均
実利用者数月29人
月の収入約33万9千円
月の支出約35万5千円
収支差率−4.6%
ケアマネジャーの常勤換算数0.8人

規模が上がるほど収支は改善し、41〜60人で−2.1%、151〜200人では+8.6%になります。黒字が安定するのは、1人では届かない規模からという結果です。

なお、この数字は事業所の平均像です。1人ケアマネジャー事業所そのものの収支差率を国が公表しているわけではありません。

出典:令和5年度介護事業経営実態調査結果 第79表

入院や月途中の契約で収入が減る

担当30件の試算は約37万5千円、統計の平均収入は約33万9千円です。平均実利用者数が29人であることを踏まえても、試算のほうが高く出ます。差が生まれる理由は、次の3つに整理できます。

差が生まれる理由中身
満額の枠を使い切れていない平均は29人で、44件までまだ余白がある
算定できない月がある入院・入所・月途中の契約では居宅介護支援費が立たない
要介護度の構成が前提と違う要介護1・2に偏ると1件あたり325単位分だけ下がる

つまり、試算の数字は上限に近い値です。実際の手残りは、件数よりも「何件が毎月きちんと算定できているか」で決まります

ぺんすけ

毎月の請求件数を、契約件数と別に記録しておくことをお勧めします。契約は35件あるのに請求は31件、という月は珍しくありません。
この差が続くなら、件数を増やすより算定漏れを潰すほうが先です。

出典:令和5年度介護事業経営実態調査結果 第79表

1人ケアマネの収支を改善する3つの打ち手

件数を増やす以外にも、手残りを増やす方法があります。1人体制では2人目を雇う選択肢が使えないぶん、いまの担当件数のまま収入と支出の両方を動かす発想が要ります。

ここでは、担当件数を増やさずに実行できる打ち手を3つに絞って整理します。

いずれも44件の枠が埋まりつつある事業所ほど効き方が大きくなります。

要介護3以上の利用者の割合を上げる

同じ1件でも、要介護度によって単位数が変わります。要介護3・4・5は1,411単位、要介護1・2は1,086単位で、その差は1件あたり325単位です。

その他の地域なら、1件で月3千円ほどの違いになります。

  • 10件を要介護1・2から要介護3以上に入れ替えると、月3万2千円ほど増える
  • 病院の医療ソーシャルワーカーからの退院支援は、要介護度が高くなりやすい
  • 件数を増やさずに収入を動かせるため、44件の枠が埋まっている事業所ほど効く
ぺんすけ

要介護度の高い方を選んで受けましょう、という話ではありません。
どこから相談が来るかで構成は自然に変わる、という意味です。地域包括支援センターだけに頼ると、要支援と要介護1・2に寄りやすくなります。

認定調査を受託して収入源を増やす

要介護認定の調査は、市町村から居宅介護支援事業所に委託されることがあります。基本報酬とは別の収入になるため、逓減制の影響を受けません

  • 委託料の額と受託できる件数は市町村ごとに違う
  • 受託には研修の受講など保険者ごとの条件がある
  • 訪問のついでに回れる地域なら、移動時間の負担が小さい

金額は自治体で差があるため、指定を受ける保険者に事前に確認してください。

毎月出ていく経費を抑えて手残りを守る

収入側の打ち手が限られる以上、支出側の設計が効いてきます。

統計上の平均支出は月約35万5千円ですが、この内訳は事業所ごとに大きく違います。

見直す費目効き方
事務所家賃自宅の一部を使えるかどうかで月の収支が数万円動く
介護ソフトケアプランデータ連携システムに対応した製品を選べば、居宅介護支援費(Ⅱ)の要件と両立できる
車両費訪問エリアを絞ると、走行距離と時間の両方が減る

担当30件の試算収入は約37万5千円で、平均支出との差は約1万9千円でした。
ここで事務所家賃を月3万円下げられれば、手残りは約4万9千円になります。
件数を5件増やすのと同じくらいの効果が、支出側の見直しから出ることもあります。

ぺんすけ

小規模事業者の予算と時間が限られていることは、私自身よく分かっています。最初から全部そろえる必要はありません。固定費として毎月出ていくものから順に見直すのが、いちばん確実です。

出典:令和5年度介護事業経営実態調査結果 第79表

1人ケアマネ事業所が選ばれるための情報発信

件数と手残りの見通しが立ったら、次は相談の入口です。1人事業所に相談が届く経路は、おもに次の3つです。

  • 地域包括支援センター
  • 病院の医療ソーシャルワーカー
  • 利用者の家族

法人の規模で選ばれない事業所ほど、誰がどんな方針で支援するかが伝わっているかで差がつきます

ホームページで支援方針と実績を公開する

事業所のホームページには、規模ではなく人と方針を載せます。掲載する内容は次の5つが軸になります。

掲載項目書く内容
担当者の顔と経歴保有資格、経験年数、前職の分野
得意な分野認知症、医療依存度の高い方、退院支援など
対応エリア市区町村名と、訪問できる範囲
連絡がつく時間帯訪問中の連絡方法と折り返しの目安
事業所番号と指定年月日実在する指定事業所であることの確認材料
ぺんすけ

キャリアアドバイザーとして施設を紹介していた頃、ホームページがない事業所は候補に挙がりにくい傾向がありました。理由は信頼できないからではなく、判断材料がないからです。

ホームページがないと候補から自然と離れていく原因になります。土俵に立つためにも、まずは自社を知ってもらう工夫をすることが大切です。

名刺で得意分野と連絡先を伝える

1人ケアマネジャーが顔を覚えてもらう場面は、対面が中心です。

退院前カンファレンス、地域ケア会議、初回訪問のいずれも、名刺を渡すところから関係が始まります。

名刺に入れる要素効き方
得意分野の1行渡した相手が誰かに紹介するときの手がかりになる
ホームページのアドレスあとから詳しく見てもらえる
連絡がつく時間帯折り返しの前提が伝わる
ぺんすけ

名刺を切らしたまま会議に出て、次の相談につながらなかったという話をよく聞きます。1人事業所では、名刺そのものが事業所案内の役割を持ちます。資格と得意分野が一目で伝わる面をつくっておくと、渡すときの説明が短く済みます。

Teraceでは、居宅介護支援事業所のホームページ制作・名刺制作を承っています。1人で運営しているからこそ、費用と手間を抑えた形で情報発信の土台をつくりませんか。

1人ケアマネに関するよくある質問

1人ケアマネの開業資金はいくらかかりますか?

開業支援サービス各社は300万円前後を目安として示していますが、公的な統計はありません。内訳は法人設立費用、事務所の初期費用、介護ソフトの導入費、そして軌道に乗るまでの運転資金です。

資金計画は日本政策金融公庫や商工会議所の創業相談で確認してください。

自宅を事務所にして開業できますか?

自宅の一部を事務所として指定を受けている事業所はあります。

ただし、利用者の相談に応じるスペースの確保や、居住部分との区分について保険者ごとに判断が分かれます。物件を決める前に、指定を受ける市区町村の担当窓口へ図面を持って相談してください。

1人の事業所にも運営指導は来ますか?

規模にかかわらず対象です。ケアプラン、サービス担当者会議の記録、モニタリングの記録などを、いつでも提示できる状態にしておく必要があります。

1人体制では書類の作成が後回しになりやすいため、月内に完結させる運用を決めておくと安全です。

主任介護支援専門員の研修はどうすれば受けられますか?

都道府県が実施する主任介護支援専門員研修を受講します。受講には介護支援専門員としての実務経験などの要件があり、都道府県ごとに定員と申込時期が決まっています。

研修の案内は各都道府県や職能団体のサイトで公表されるため、早めに確認してください。

まとめ|1人ケアマネ事業所を続けるための確認事項

1人で居宅介護支援事業所を運営するときに、定期的に見直したい項目をまとめます。

確認項目チェックポイント
開設要件常勤のケアマネジャー1人を置き、営業時間中の連絡体制を整えているか
管理者の資格主任ケアマネジャーか、令和3年3月時点からの経過措置に該当しているか
経過措置の期限令和9年3月末までに主任ケアマネジャー研修を受講する見通しがあるか
担当件数取扱件数が44件(居宅介護支援費Ⅱなら49件)に近づいていないか
件数の数え方介護予防支援の利用者を3分の1に換算したうえで集計しているか
算定漏れ契約件数と請求件数の差が毎月どれくらい出ているか
支出の内訳家賃・介護ソフト・車両費のうち、下げられる固定費が残っていないか
相談の入口地域包括支援センター、病院、家族に事業所の情報が届いているか

1人ケアマネジャーの事業所は、報酬の仕組みのうえでは規模の利益を取りにくい形です。それでも担当30件前後まで届けば、計算上は黒字圏に入ります。

数字の天井を正確に把握したうえで、どこから相談が来る事業所にするかを決めてください。

ぺんすけ

制度の確認は年に1度で足りますが、件数と収支の確認は毎月がお勧めです!

Teraceでは、介護事業所のホームページ制作・名刺制作を承っています。数字の見通しが立ったら、次は相談が届く仕組みづくりを始めましょう。

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この記事を書いた人

レバウェル介護にて約2年間、介護業界専門のキャリアアドバイザーとして従事。これまでに300名以上の介護士の転職面談を担当。また介護施設への人材派遣を通じて採用側の課題解決にも従事。このような実務経験をもとに、介護事業者・求職者双方にとって信頼性の高いWeb制作を行っています。

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