訪問介護の移動時間は給料に入るのか?最低賃金との関係も解説

移動時間にも給料を払う義務があるのか。訪問介護の経営者からこうした不安の声をよく聞きます。しかし、この問いへの答えだけでは、移動時間の問題は半分しか解決しません。

移動時間が長いままだと、利益を削り、ヘルパーを辞めさせ、紹介を断ることになります。これは労務リスクだけでなく、経営効率と採用定着の3つのコストが同居する論点です。

この記事では、まず移動時間の労働時間性と賃金の払い方(王道の答え)を確定させます。そのうえで、移動時間が売上機会損失・採用難を招く構造と、根本から移動を減らす方法まで解説します。

目次

訪問介護の移動時間が労働時間になる条件

訪問介護で労働時間になる移動とならない移動の一覧。事業所と利用者宅の間、利用者宅間の移動、待機、業務報告書の作成・研修は労働時間になり、自宅との直行直帰・出退勤は通勤扱いで労働時間にならない

移動時間が労働時間になるかどうかは、使用者の指揮命令下にあるかどうか、時間の自由利用が保障されていないかで判断します。個別の状況によって判断が異なる場合があるため、詳細は労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

以下の表で、労働時間になる移動とならない移動を整理します。

移動の種類労働時間への該当
事業所 ↔ 利用者宅該当する
利用者宅 ↔ 次の利用者宅該当する
自宅 ↔ 最初/最後の利用者宅(直行直帰)通勤扱いで該当しない
自宅 ↔ 事業所(出退勤)通勤扱いで該当しない
ぺんすけ

自宅と関連する移動に関しては、基本的に通勤扱いになりません!

事業所と利用者宅の移動は労働時間

厚生労働省労働基準局長の通達(基発第0827001号・平成16年8月27日)では、使用者の指揮命令下で自由利用が保障されない移動は労働時間に該当すると定められています。

具体的には、事業所から利用者宅への移動、そして利用者宅から次の利用者宅への移動が、この要件を満たします。

通常の移動に要する時間程度であれば、労働時間に算入されます。

訪問の合間に無関係な用事をする自由が与えられていない場合は、移動時間は労働時間として扱われます。

自宅との通勤時間は労働時間に入らない

同通達では、「自宅から利用者宅への直行の移動時間は通常の通勤時間と同様、労働時間ではない」と明示されています。

自宅から直接最初の利用者宅へ向かう直行直帰のケースも、この通勤扱いが適用されます。移動時間の賃金を払わなくてよい唯一の例外が、この通勤時間です。

ただし、直行直帰は労働時間の始まりと終わりが事業所で確認しづらくなります。勤怠管理の設計は必須で、あいまいにしておくと別のリスクが生じます。

移動時間の賃金を最低賃金割れさせない払い方

移動時間が労働時間になると確認できたら、次は賃金をどう払うかです。払い方の設計を誤ると、気づかないうちに最低賃金法違反になります。

労働基準法第24条は「すべての労働時間に対して賃金を支払う」と定めています。賃金の整備は社会保険労務士へ相談することを推奨します。

出典:介護労働者の改善ポイント

時給型は移動時間も通算して払う

時給制で雇用する場合、介護サービス提供時間だけでなく、移動時間・待機時間・業務報告書作成時間も含めて通算し、その合計時間に応じて算定します。

1日3件訪問してサービス提供時間が合計3時間でも、移動と記録が合計1時間あれば、時給×4時間分を支払う必要があります。サービス提供時間の3時間分だけ払っていると、未払い賃金が発生します。

ぺんすけ

時給制は移動時間の管理が明確なため、設計と運用がしやすい方式です。最低賃金以上を確保する計算も、総時間で時給を掛けるだけなので理解しやすい点が利点です。

なお、訪問の間隔と介護報酬の算定ルールについては、訪問介護の2時間ルールも合わせて参照してください。

移動手当型は時給換算で最賃を確かめる

移動手当200円×5件(合計1,000円)の時給換算試算。移動が合計1時間なら時給1,000円で最低賃金ちょうどだが、渋滞で1時間15分に延びると時給800円換算となり最低賃金割れになる

時給型の代わりに、移動1回につき固定額の「移動手当」を払う方式もあります。しかしこの方式には見落としやすい落とし穴があります。

最低賃金法第4条は、移動時間を含む総労働時間で時給換算すると地域別最低賃金以上でなければならないと定めています。

ぺんすけ

固定の移動手当を払っていても、総労働時間で時給換算すると最低賃金を下回るケースがあります!

【仮想試算例】最低賃金が1,000円と想定した地域で、移動手当1回ごとに200円で設計したシナリオを想像してみてください。1日5件訪問し、移動時間が合計1時間あったとします。 この場合、移動手当の合計は200円×5件=1,000円となります。 移動1時間に対して1,000円なので、最低賃金ちょうどのぎりぎりの水準です。 もし渋滞などで移動が合計1時間15分に延びると、1,000円÷1.25時間=時給800円換算となり、最低賃金を下回ります。

移動手当の金額は一例ですが、固定額方式は移動が延びた瞬間に違反になり得るため、総労働時間での時給換算を必ず検証してください。

登録ヘルパーも移動分を賃金に含める

登録ヘルパー(非常勤・時給制)は、直行直帰で働くケースが多い職種です。そのため、「賃金は訪問先でのサービス提供時間分だけ」と誤解している事業所があります。

ぺんすけ

特に登録ヘルパーは「自分のシフトで選べる」と周知されるため、雇用主側が移動時間を軽く考えやすい職種です。しかし法的には常勤・非常勤を問わず、同じルールが適用されます。

雇用形態にかかわらず、労働時間に該当する移動は賃金の対象です。時給の登録ヘルパーも、利用者宅間の移動時間を通算して最低賃金以上を満たす必要があります。

「登録ヘルパーだから移動手当を出さなくてよい」は誤りです。労基署の是正指導対象になりますので注意しましょう。

移動時間が長い訪問介護のデメリット

賃金の払い方を整えても、移動そのものが長いままでは経営を圧迫します。

ぺんすけ

これが、移動時間という問題の第2のコストです。労務リスク(給料の払い方)の次に、事業効率そのものが損なわれるという層の厚い問題なのです。

移動時間の長さは、利益構造に直接影響します。 訪問介護の収支差率は令和元年2.6%・令和2年6.9%・令和3年6.1%と薄い利益率です。

この薄い利益率の中で移動時間が利益を削っています。

出典:社保審介護給付費分科会第220回(令和5年7月24日)資料1

移動が長いと紹介を断ることになる

紹介を断った理由の割合(複数回答・n=253)。人員不足が90.9%で最多、移動時間が長く対応困難が27.3%

ケアマネジャー(介護支援専門員)からの紹介を断った経験を持つ事業所は、少なくありません。

訪問介護事業のサービス提供体制に関する調査(令和3年度老健事業、浜銀総合研究所)で、紹介を断った理由として「移動時間が長く対応困難」を挙げた事業所は27.3%でした(複数回答、n=253)。

最多は「人員不足」の90.9%ですが、移動時間が単独の理由になるケースが存在します。

ぺんすけ

27.3%という数字は、紹介を断った事業所のおよそ4分の1が移動を理由に挙げているという意味です。

出典:社保審介護給付費分科会第220回(令和5年7月24日)資料1

訪問件数が減って利益が細る

1日の訪問件数の比較(1件1時間・8時間シフトの例)。移動ロスが少なければ1日7〜8件回れるが、移動が1件15分ずつ延びて合計75分のロスが出ると1日5件止まりになる

移動時間が長くなるほど、1日に回れる訪問件数が減ります。訪問介護の売上は基本的に訪問件数に比例するため、移動の長さは売上の上限を決めます

1日のシフトが8時間のヘルパーが、訪問1件ごとに移動が15分延びたとします。1日5件訪問する場合、移動時間の延長だけで合計75分が失われます。 1件あたりのサービス提供時間が1時間なら、理論上は7〜8件回れたところが5件止まりになります。この差が積み重なると、月間の訪問件数・売上に大きな開きが生まれます。

移動時間が長い事業所は、ヘルパー1人あたりの売上が構造的に低くなりやすい状態にあります。訪問介護の一人あたり売上の考え方については、訪問介護の一人あたり売上で詳しく解説しています。

移動時間の負担が招く訪問介護の採用難

訪問介護員の採用難と高齢化を示すデータ。有効求人倍率は令和4年度で15.53倍、平均年齢は令和3年度で54.4歳、65歳以上の割合は24.4%

移動時間は採用・定着にも直接影響します。訪問介護員(ホームヘルパー)の採用は、介護職種の中でも特に厳しい状況にあります。

訪問介護員の有効求人倍率は2022年度(令和4年度)時点で15.53倍に達しています。 これは、施設介護職員との比較でも突出して高い数値です。

約300名の介護職者の転職支援を担当した経験から、訪問介護の求人は独特の理由で敬遠されていました。

訪問介護の求人を見せると、求職者の反応が変わりました。「一人で利用者宅に行くのが不安」「移動が多く体力的にきつそう」という声が大多数です。 施設介護のような「周りにスタッフがいる」安心感がなく、孤独と移動負担がセットで語られていました。移動距離が長いエリアの求人は、選考進出率が低い傾向です。

出典:社保審介護給付費分科会第220回(令和5年7月24日)資料1

高齢ヘルパーに長距離移動は重い

訪問介護員の年齢構成は高齢化が進んでいます。令和3年度の実態調査では平均年齢が54.4歳で、65歳以上の割合が24.4%です。

これは介護関係職種全体の平均(50.0歳、65歳以上14.6%)を大きく上回り、訪問介護員の高齢化が際立っています。

平均年齢54.4歳のヘルパーに、利用者宅間を自転車や徒歩で長距離移動させることは、身体的な負担が大きくなります。

ぺんすけ

移動の負担は、若いヘルパーと高齢ヘルパーで大きく異なります。膝や腰の痛みを抱えているヘルパーに長い移動距離は、単なる疲労ではなく「働き続けられるか」という定着の問題に直結するのです。

出典:社保審介護給付費分科会第220回(令和5年7月24日)資料1

移動の負担が離職につながる

訪問介護員・介護職員の離職率は2023年度(令和5年度)で13.1%です。 採用率16.9%と比較すると、離職と採用のサイクルがまわっているように見えます。 しかし実際は、年間を通じた人員の穴埋めに追われる事業所が多いのが実態です。

令和5年度の実態調査(労働者調査)では、訪問介護員・介護職員の88.0%が何らかの悩みや不満を抱えています。

主な内容は「人手不足」49.9%・「賃金が低い」37.5%・「身体的負担」29.3%です。

ぺんすけ

転職支援の面談で聞いてきた限り、離職理由として語られる大多数は人間関係でした。ただし訪問介護では、移動の負担が加わることで「体力的にしんどい」と人間関係の不満が重なりやすいのです。移動が長い事業所では、不満が積み重なって早期離職につながります。

移動の負担が「敬遠・定着しない」の一因になっていることは、採用環境を考えると見過ごせないコストです。

出典:令和5年度介護労働実態調査(介護労働安定センター)

訪問介護の移動時間を根本から減らす方法

移動時間を根本から減らす3ステップ。ステップ1は自転車15分圏内など面で担当エリアを絞る、ステップ2は近隣に住む人材をエリア内で採用する、ステップ3は訪問順の並べ替えと直行直帰でルートを最適化する

移動時間を短縮する根本策は、Googleマップでのルート検索ではありません。

担当エリアを面で絞ることで、移動が構造的に減り、件数が増え、定着しやすくなります。

エリア設計を誤ると廃業に直結するリスクもあります。事業立ち上げ時の失敗パターンについては、訪問介護の開業失敗を防ぐ方法も参考にしてください。

担当エリアを絞って移動を減らす

訪問介護の移動が長くなる根本原因は、担当エリアが広すぎることです。エリアを面で絞り込むと、利用者宅間の距離が自然に縮まります。

具体的には、事業所から自転車で15分ほどで回れる圏内、または特定の町丁目に担当エリアを限定します。 適切な広さは地域の道路事情や訪問手段によって変わるため、実際の移動記録を見ながら調整してください。

ぺんすけ

エリア外の紹介は断るか他事業所と連携することが、長期的な経営効率につながります。ただし、エリアを絞るためには、そのエリア内で継続的に利用の相談につながる集客の仕組みが必要です。

エリア内のケアマネへの営業と、地域住民に認知されるホームページの整備が土台になります。特に大事なのは、ケアマネと関係構築を行い、継続的に集客できる基礎を作ることです。

ルート設計と直行直帰で無駄を省く

担当エリアを絞ったうえで、シフトのルート設計を最適化します。

地図上で訪問順序を並べ替え、折り返しや往復を減らすだけで、1日の移動距離は短縮できます

ぺんすけ

ルート最適化は実質コストゼロで開始できます。Googleマップで訪問順序を並べ替えるだけでも、移動の無駄は目に見えて減らせます。

直行直帰(自宅から最初の利用者宅へ直接行き、最後の利用者宅から直帰)は、事業所出退勤の時間を削減できます。 ただし労働時間の記録が見えにくくなるリスクがあります。 勤怠管理ツールや介護記録システムで移動時間を自動記録し、後から労働時間を立証できる体制が必須です。

地域を絞った集客と採用を同時に進めるには、地域に根ざした情報発信が必要です。 Teraceでは、訪問介護事業所に特化したホームページ制作・採用サイト制作を提供しています。 移動コストを構造から減らす地域密着の情報設計について、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

レバウェル介護にて約2年間、介護業界専門のキャリアアドバイザーとして従事。これまでに300名以上の介護士の転職面談を担当。また介護施設への人材派遣を通じて採用側の課題解決にも従事。このような実務経験をもとに、介護事業者・求職者双方にとって信頼性の高いWeb制作を行っています。

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